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【終活オススメ本⑤】生死_生前四十九日

2021年2月4日

会報誌で人気だった「忍書房の<明日読む本、お探しします>」シリーズから、今回はオススメの終活本をご紹介します! 

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長谷川ひろ子・長谷川秀夫「生死_生前四十九日」 (アートヴィレッジ)税込1,500円

 歳で末期癌と診断された夫が、妻に闘病生活を映像で記録するように依頼したのは、もちろん生還するつもりだったからだ。京大大学院を卒業した薬学博士で癌治療も専門にしていた夫は、この事態を何とかしたいと思い、何とかできるんじゃないかと期待していたんじゃないか。 耳下腺の廓清手術で顔半分の神経をとってしまったから、もともと豊かではなかった表情は、さらに無表情になってしまう。そのことを気に病むなら、もっと豊かな表現を心がければよかっただろうに。後悔はいつもあとからやってくる。病による体の変容はこれまで感じたことのなかった恐怖をもたらす。病を得た人たちに、薬学博士として健康観を説いてきた自分の仕事を振り返って、なんだ何もわかっていなかったと反省をする。生きたいという渇望は、恐怖と背中合わせなのである。そして、奇跡は起こらない。 人の子供たち、そして闘病生活の記録が残った。妻は、最初は自分のために、次には子供たちのために、それから逆縁となってしまった夫の両親、自分の両親、さらには見ず知らずだけれども、思いがけなく家族を亡くした経験を受け止めきれずにいる人たちのために、手元に残った記録を使おうと、思ったのだろう。記録映画として整理された夫の闘病記録は、妻の講演会とセットで全国を回ることになる 家族の死を受け入れることができない人がいるのだろう。それは理解できる。人一人が死ぬ、ということがどれだけ大変なことなのか伝えたい、というのなら、それも理解できる。しかし、臨終をみとる行為を映画にする、という行為は、ちょっと私には理解ができなかった。そもそも、生還するつもりで始めた闘病記録なのではなかったか。 生と死を上下に合字して「イキタヒ」と仮名を振ったり、「生前四十九日」という奇矯な区切りを衒いなく使ったり、著者の独特な筆使いが気になる本である。告別式では「私のピアノ伴奏に合わせて長女がフルートを吹いて」いたのに、映画製作が始まると「ピアノを習ったことのない私の指が」自然に動いて音楽を奏でた、となってしまう。文章に破れ目が多いために、読み辛く理解しがたい部分も多い。さては編集者が付かなかったな。文章の破れ目は、うまく使うと物語の推進力になったりするのだが。 肉体の死のあとその人は、残された人々の思い出の中で生き続ける。思い出す人がいなくなった時、人は2度目の死を迎える。長谷川秀夫さんとは一面識もない私たちも、こうして本の形で人柄に触れることで、彼の人生を考えることができる。なんだそう考えれば、報われるような気がするじゃないか。今来た道を振り返ることの多くなったあなたに、おススメします。


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